日本PMO協会では、日本におけるPMおよびPMOの普及を目指しております。PMO経験者のお話をじっくりとお聴きし、その知識や経験を皆様に情報発信しております。
大手コンピュータメーカーのシステム部門にて、長年プロジェクトマネジメントやPMOの実務を経験。さらに、PMI日本支部『戦略的PMO』(オーム社、2009年)の共同著作を行い、その後、PMO研究会代表として多くの企業におけるPMOの事例を研究。現在はプロジェクトマネジメントやPMOの普及のため、研修講師など幅広く活躍している。プロジェクトマネジメントの国際資格であるPMP®の有資格者。その他にも、ITコーディネータ、公認システム監査人、情報処理技術者試験プロジェクトマネージャ、情報処理技術者試験システム監査技術者などの専門的な資格の有資格者。
小山氏:私自身も会社員時代に多くのプロジェクトマネジメントを行ってきましたが、ある時、当時の事業部長から、あまりうまくいっていないプロジェクトについて、「なぜ、そのプロジェクトがうまくいっていないのか、問題点を確認して、その理由を教えてほしい」と言われました。
日本PMO協会(以下、NPMO):その時、具体的にどのような活動をされたのですか?
小山氏:プロジェクトの進捗会議に出席し、プロジェクトマネジャーの振舞い、資料を収集しました。すでに様々なプロジェクトを経験していましたから、その知識や経験から、進捗や品質の問題点/リスク、さらにプロジェクトマネジメントのプロセスやツールの問題点、プロジェクト体制やコミュニケーションの問題点をまとめ、改善策を事業部長に報告しました。
NPMO:その時代にPMOという部署はあったのでしょうか?
小山氏:当時はそのような名前の組織は無かったですね。しかし、お話したようなプロジェクト状況をモニタリングし、支援する活動は、多くの事業部でも立ち上がりはじめていた時代でした。だいたい2005年ぐらいだったと記憶しています。
その後、私は事業部のPMOのとして、事業部内でプロジェクトマネジメントの標準化や、重要プロジェクトの審査を行っていきました。その時にはPMBOK®の知識や技術も活用しました。
PMOでの仕事の経験を通じて、重要な役割はプロジェクトのリスクを早期に検知し、対策を打つこと、そしてプロジェクトマネジメント計画書の審査だと思います。特にプロジェクト開始時のプロジェクトマネジメント計画書の審査は、計画書が実現可能なように計画されていれば、その後のプロジェクト実行時もトラブルを未然に防げるという想いから重点的におこなっていました。このことは、プロジェクトマネジャーにプロジェクトマネジメントプロセスの指導につながっていました。
小山氏:そうですね。プロジェクトマネジャーはそのプロジェクトにずっと従事しているわけですから、目標達成のために主観的になる傾向があります。そこで、PMOのメンバーが客観的視点からアドバイスや指摘をすることが重要だと考えています。
例えば、プロジェクトの進捗会議にオブザーバーとして入るのもPMOのメンバーとして重要な仕事だと思っています。進捗会議は確実に開催されているか、プロジェクトマネジャーのコミュニケーションは最適か、参加メンバーの振る舞いが適切か、提出資料は最適かなどを、客観的視点で注意深く確認し、プロジェクトマネジャーやプロジェクトオーナーにフィードバックする役割が重要だと考えています。これらは、プロジェクトでのトラブルの未然防止のひとつであると思います。
小山氏:組織としてのPMOの位置づけには大きく2つあると思います。企業内PMOとプロジェクト内PMOです。企業内PMOは、企業組織の中にあるPMOで、例えば事業部にPMOがあったり、役員直下にPMOがあったりする場合で、事業部全体のプロジェクトを支援する、または企業全体のプロジェクトを支援する役割です。プロジェクト内PMOは、プロジェクト自体の中のPMOで、そのプロジェクト自体を専属で支援する役割で、PO(プロジェクト・オフィス)というような役割のものです。私自身は企業内PMOとして長年の経験をしてきました。
NPMO:「企業内PMO」と「プロジェクト内PMO」との組織の位置づけ以外で違う点はありますか?
小山氏:いろいろと違いはあると思います。組織には組織の目標があります。ちょっと固くなってしましますが、企業内PMOの場合は、組織の目標を組織内部の複数プロジェクトに「浸透させていく」役割も重大なミッションとしてあると思っています。さらに、組織の長は個別のプロジェクトの詳細状況は見えにくいため、企業内PMOが、個別プロジェクト状況をわかりやすい言葉で組織の長に報告する役割も企業内PMOの重要な役割のひとつです。
プロジェクト内PMOに求められる役割は大きく2つあると思います。ひとつは、プロジェクトマネジャーに対するコンサルティングのような高度な役割です。たとえば、プロジェクトマネジャーの意思決定の支援やソリューションの提示などが例です。もうひとつはプロジェクトマネジメントの実務的な推進をする役割があると思っています。プロジェクトマネジメントの進捗管理、コスト管理、品質管理などの情報収集やそれらの可視化などや、プロジェクト内の作業の標準化やツールの標準化、帳票の整備などが例です。さらに、プロジェクトの環境整備、例えばパソコンの整備やプロジェクト資産の管理などもあるかもしれません。
これらのプロジェクト内PMOのお仕事は昔から実態としてプロジェクトの現場であったと思いますが、明確に「PMO」での仕事として企業内で定義されていないことが多いと思います。さらに規模が小さいプロジェクトなどですと、プロジェクトマネジャーがこれらの作業を兼務している場合もありますね。
小山氏:私は必須だと思います。
NPMO:キャリアパスとしては、プロジェクトメンバーでの現場経験、プロジェクトマネジャーとしての実務経験や知識を積んで、その次にプロジェクト支援としてPMOでお仕事をする、そんなイメージでしょうか?
小山氏:現在の日本では幅広い意味や役割でPMOという言葉が使われています。企業内PMOとしてのお仕事をする場合、またはプロジェクト内PMOでプロジェクトマネジャーを支援する役割であれば、プロジェクトマネジメントの知識や経験は必須だと思います。一方、プロジェクトマネジメントの実務的・事務的な役割をPMOの役割とする場合があります。このレベルですと、プロジェクトマネジャーの経験は必須ではありませんが、プロジェクトマネジメントの知識と技術の基本は知っておいたほうがよいと思います。
NPMO:日本PMO協会では、PMOの概念・フレームワークとして、PMを360度囲む形で上から・横から・下からなど様々な角度から支援していると紹介しているのですが、現場の実態としては適応していると思われますか?
小山氏:日本におけるPMOの実態としてはそう見受けられますね。企業内PMOとしても多様な機能が考えられますし、プロジェクト内POとしてもマネジメント実務や事務的な作業などの多様な実態があると思います。
小山氏:いままでお話したように、プロジェクトマネジメントの知識・技術・経験豊富な人財がPMOにいることで、プロジェクトマネジャーが気づかないリスクに早期に気づくことができ、プロジェクトマネジャーやプロジェクトオーナーに対するフィードバックや指導を通じてプロジェクト運営を最適化することもできます。さらに、プロジェクトの実務的推進のサポートや事務作業支援などもあります。プロジェクトの成功率を高めるための重要な組織だと思います。つまり、PMOは組織やプロジェクトにとって、プロジェクトの成功のための「味方」です。
小山氏:やはり、プロジェクトマネジャーやプロジェクトオーナーから感謝されることですね。私は組織内PMO(企業内PMO)として活動した経験が多いので、フィードバックや指摘をプロジェクトマネジャーやプロジェクトオーナーにするわけですが、それらの方々から「なるほどね」とか「ありがとう」など、感謝されることがあります。それがやりがいにつながっていましたね。
たとえば、こんな経験があります。ある困難なプロジェクトに対して様々なフィードバックや指摘をしていました。そのプロジェクトの終了時(成功時)、私はプロジェクト祝賀会に招いていただきました。そのような時は、自分の仕事が役に立っていると実感した時ですね。
小山氏:プロジェクトマネジメントの知識体系は早めに学んだ方が良いと思います。知識体系を学んだだけではプロジェクトはうまく回りませんから、プロジェクト経験を積んでいくことをおすすめします。特に、スキルの高いPMOでのキャリアを目指すのであれば、プロジェクトマネジメントのスタイルは、プロジェクト規模などで多様ですので、その経験はとても重要となります。この経験を通じてPMOでのお仕事につながっていくべきではないかと思っています。
小山氏:私自身が長年PMOの仕事に従事してきて、会社組織としてPMOの役割はとても重要だと感じています。日本PMO協会さんは、それを日本に普及させていくということですので、私も一所懸命応援させていただきたいと思っています。
プロジェクトマネジメントが徐々に日本でも普及してきたので、若い方がPMOに進出する機会も増えてきたと思います。是非、若い方へPMOを普及させるためにご尽力していただければと思っています。